ドラマ「高嶺の花」最後のこぼれ話

2018.10.22 11:19

最後のこぼれ話として、なんと言っても、もも様の花について。
「もも様がいけた」という仮定で制作する生け花は、物語の要になる作品が多く、いつも悩みに悩みました。このシーンで彼女がどんな生け花をいけるのか、どういう雰囲気の花にするのか、正確に理解するために、脚本を何度も何度も繰り返し熟読。ストーリーも難しかったので、そのシーンにどんな意味があるのかなかなか理解できず、監督にもさとみちゃんにも相談しました。
一番悩んだのは、最終話、ももがいける大きな生け花です。台本をもらった時は、唖然としました。6流派の家元たち全員がスタンディングオベーションし、兵馬に「言葉もない」と言わせる鳥肌の立つような一線を画した作品。でも、市松が「これは月島の花ではない」という。つまり、誰も見たことのない素晴らしい生け花で、今まで登場した作品とは毛色の違う天才的作品。台本をもらった時に読んで、「一体どんな花をいけたらいいの???」と分からなくて泣きそうです。監督からは、「そんな感じのすごい生け花をひとつよろしくお願いします」と一言。そうです、自分で考えなくてはいけないのです。
そしてこんな作品になりました。
さとみちゃんと話していて、「最後のこのシーンでは、ももが今まで上から目線というか孤高の存在だったのが、みんなと一緒に大地に根ざして輝いていこう!と決意したそういう心境の生け花がいい」というアイデアをもらい、かつ、「幸せに包まれたような花、つまり色をいっぱい使って、いろんな花が咲きみだれている生け花にしたい」というリクエストももらい、この花にいきつきました。そうだ、天国みたいな幸せ感溢れる花がいっぱいの作品を作ろう!そんなときに、ふと草月流2代目家元の霞先生の作品が脳裏を横切りました。美しく若くして逝ってしまわれた草月のカリスマ。ふんだんにお花を使う作品が多く、なぜか頭の中でその霞先生ともも様が突然重なって見えたのです。霞先生の作品には及びませんが、先生へのオマージュをこめて制作した作品でもあります。霞先生は、作品に蝶を飛ばしていらっしゃったので、私も蝶を飛ばしています。霞先生の蝶は妖艶な色の強い蝶でしたが、私はもも様が穏やかに幸せになることを願って、パステルカラーの蝶を飛ばしています。

視聴者のみなさんの反応は、今までで一番良く、Instagramでも100を超えるたくさんのコメントを頂きました。「感動して思わず涙が出ました」というコメントをたくさん頂いて、本当に本当にうれしかったです。苦労が報われた瞬間でした。さとみちゃんからも、「大谷先生、すごくお花素敵ーーーー!」と言ってもらえて、感無量です。

こちらも大事なシーンの花。ももとななの姉妹対決。脚本では、「2人のいけた全く趣の違う花が舞台上に飾られてある。どちらとも甲乙つけがたい。」ただ、ななは「感情がほとばしった作品」ももは「落ち着いた作品」ということだけ、書かれていました。私なりの解釈でいきついた2つの作品です。全く違う雰囲気のものにしています。

こちらはももがスナックで下町商店街のみんなにデモをしてみせる作品。「商店街のみんなは綺麗だと絶賛する」でも「ももは納得していない」という脚本でした。だから、綺麗だけど平凡な作品、というのを目指していけたのがこれです。やや花を入れすぎで、線も雑、でも、普通の人には綺麗に見えるはず、と意図していけています。さとみちゃんがいけていく過程をみせるシーンだったので、それも大変でした。ひとつのシーンは10回以上撮影します。同じ演技を何度も何度も繰り返す、つまり、花を何度も何度も切ってはいける作業を繰り返す、ということです。いけたら微妙に1回目と花の位置がずれたり、何度も切るので同じ花をかなり多めに用意したり。あまり普通やらない苦労の連続でした。撮影は、カメラ位置が移動していくので、どこから撮影されるのかも現場でずっとチェックしています。意外な方向からカメラを向けられると、急に全体のバランスがおかしく映ることも多々あるので、気がぬけません。そういう意味では、花展やイベントにいけるときには、お客様が正面からきちんと鑑賞してくださる安心感があります。このスナックの生け花は、「1週間経ってかなり枯れかけている」というシーンの撮影もありました。その花を見てプーさんが泣く、という大事なシーン。実際は翌日撮影だったので、枯れて見せるために、あらゆる実験を試みた苦労の花でもあります。

こちらは、ももが雑誌取材を受けるためにいけたという設定の生け花です。撮影は、なんと河口湖のスタジオまで出向きました。連休に撮影日がぶつかり、あちらを夜の8時に出たのに東京に帰ってきたのは12時を超えていた、というつらい渋滞の記憶が濃厚に残る作品です。連日の撮影で睡眠時間が取れず、この花をいける頃にはすでに体がだるくて、毎日リポビタンDを飲み始めたのがこの頃です。

もも様のアシスタント役で初エキストラでした。

こちらは番組オープニングで毎回流れるタイトルバックの花。ももがいけている設定です。キリッとした潔さとももの持って生まれた高貴なイメージを表現してみました。

こちらは、第2話でももがデモをした生け花。実は、撮影が1日で終わるはずが終わらず、続きはその1週間後に再撮影となりました。つまり、2回同じ生け花をいけ直しました。繋がりがあるので、全く同じに!というリクエストでしたが、生け花って、そのときに偶然にできる植物の線をとりこむところがあるので、ぴったり同じ作品、というのが本当に難しいのです。苦労しました。

こちらも同じく2度いけた作品です。

 

ももさまとはちょっと話がずれますが、これは、「龍一とななの愛の花」。2人の心の距離が近づいていく象徴的なシーンでいけました。「愛の花を」と頼まれてはりきっていけた割には、あまり画面には映りこまなかった無念が残る生け花です。

無念と言えば、こちらのシーン。ななが目隠しをしながら龍一と一緒に生け花を後ろいけで完成させていくシーンですが、目隠しをしてかつ後ろいけって、もう「無理難題」なぐらい難しいことなのです。とても真面目な役者さん2人なので、それはそれは苦労してがんばって練習してできるようになって、撮影も無事終了!と思ったら、編集でかなり切られてしまった無念のシーン。本当は2人がいけはじめからいけ終わるまでずっとワンカットで撮影されています。

こちらは、最後の自転車屋のシーン。夜中にロケ先の商店街で、自転車屋の中を思いっきり飾り付けました。ぷーさんとももには、本当に幸せになって欲しい!と願いをこめて。

ぷーさんの自転車屋さんは、荒川区の熊野前商店街で撮影されました。昭和にタイムスリップしたような、私が子供の頃によく見ていた風景が急に突然目の前に現れるような、今はなかなかお目にかかれないレトロで素敵な商店街でした。まだ東京にこんな商店街が残っていたんだ、と感動します。オススメです。

さて、あとは想い出写真をふたつ。

遠山記念館で戸田菜穂さんのアップの日に。「大谷先生も一緒に撮ろうよー」と言ってもらって、記念撮影したもの。大好きな役者さん3人と。

私の最後の仕事は、ももが公園でワークショップをしているラストシーンでした。アップを記念して、さとみちゃんと。さとみちゃんは、私より20歳も年が下だけど、でもそんなの全然関係なく、仕事に対する姿勢や考え方、いわゆる生き様があまりに素敵で、とても尊敬している女性です。3ヶ月半一緒にいて、「すごいなあ」と思ったことが何度もあります。お顔や姿は言うまでもなく美しいですが、内面もキラキラと輝いている人でした。

以上長いような短いような私の2018年の夏でした。毎日寝ずに撮影に追われていたので、記憶が5月からふっと飛んでいるような錯覚に陥ります。全174作品、これほどいけるとは思いませんでした。途中逃げ出したくなるぐらいのハードスケジュールでしたが、今は本当にやらせて頂いて良かったと思っています。「生け花は床の間にいけるもの」という固定観念がまだまだなくならず、今回やらせて頂いたスタッフでさえ、撮影前は「これまでほぼ生け花を見たことがない、イメージがつかない」というような状態でした。生け花は時代に生きているアートで、どんな場所にもいけられる、いろんな表現ができる芸術なのです。少しでも多くの方に、「生け花って素敵だな!」」と思ってもらえることができたら、本当にやった甲斐がありました。そして、できれば1人でも多くの人に、「生け花、やってみたいな」と思ってもらえたら、幸せです。

打ち上げで、脚本家の野島伸司さんとお話していたときに、「天才の話を書いているんだから、生け花がしょぼくては、話が成り立たなかった。影のMVPだよ。」と言ってもらえたとき、本当に疲れが吹き飛びました。本物の天才に褒められて、感無量です。

写真は全てInstagramにアップしているので、ぜひ見てもらえるとうれしいです。

Instagramはこちらです。ほぼ全てアップしてます。

番組HPの「生け花ギャラリー」はこちらです。

ドラマを急にもう一度見たくなった人は、Huluで全話視聴できます。来年の2月には、ブルーレイとDVDが発売の予定です。

さあ、想い出はこのへんに、また頑張ります!

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